[記号の由来]性別の記号

私たちが普段なんとなく意味を理解して使っている、いろいろな記号。その、そもそもの由来を備忘録的にまとめていきます。今回の記号は「性別記号」です。

男・女の記号の由来

そもそもは惑星の記号

上記の記号、現在は男女の記号として一般的に用いられています。その元々の使い方は、天文学で惑星を表すためのものでした。男性の記号が火星女性の記号は金星を表す記号です。

太陽系の惑星記号

惑星記号の由来はローマ神話

その惑星記号にもさらに由来があります。欧米では、地球を除く太陽系惑星の名前が、ローマ神話の神々に因んで付けられています。そのため、惑星の名前が由来する神に関連したものを記号化したものが、惑星記号となっているのです。

戦と農耕の神マルス→火星→男性

火星のラテン語名はMars(マールス)。英語では同じ綴りでマーズと読みます。これはローマ神話の軍神マルスが由来です。記号の形はマルスが持っている槍と盾の形を図案化したもの。このマルスの雄々しいイメージが転じて、男性・雄の記号として使われるようになった、というわけです。

Sネルウァのフォルムの紀元2世紀頃のマールス像
カピトリーノ美術館所蔵

愛と美の神ヴィーナス→金星→女性

金星のラテン語名はVenus(ウェヌス)。英語では同じ綴りでヴィーナス読みます。こちらはローマ神話の愛と美の女神ヴィーナスが由来です。記号の形はヴィーナスが持つ手鏡を図案化したもの。ヴィーナスの優美なイメージが転じて、女性・雌の記号として使われるようになりました。

ウィリアム・ブーグロー『ヴィーナスの誕生』
1879年 オルセー美術館所蔵

では、これらの惑星記号が性別の記号として使われ始めたのは、いつ、誰によってなのでしょうか?

カール・フォン・リンネの発案

火星と金星の惑星記号を性別記号として使用し始めたのは、18世紀スウェーデンの博物学・生物学者、カール・フォン・リンネ(1707-1778)です。著書『自然の体系』で生物の分類を体系化したことなどから、「分類学の父」と称されます。

カール・フォン・リンネ
(アレクサンダー・ロスリン画、1775年)

リンネは、生物学で「雄(オス)」を表す記号として、火星の記号を使い始めました。併せて「雌(メス)」の記号として金星の記号も使用されます。元々は、社会的な「性別(ジェンダー)」ではなく、生物学的な「雌雄」を意味する記号として使われ始めたのです。

ちなみに、雌雄同体の意味で水星の記号も導入していたようですが、こちらは時と共に廃れていったようです。

記号の変遷

現代の性別関連記号

トランスジェンダーなど

現在では上述の性別記号を基にして、トランスジェンダーなどを表す記号が、Unicode(文字記号の業界規格)に収録されています。

現代で派生した性別記号

近年の世相から、最近導入されたと思いそうですが、2005年のUnicode4.1.0からすでに収録されているようです。意外にも、15年前には存在していました。

これらの記号から見て取れるのは、18世紀にリンネが使用し始めた頃とは違い、明らかに社会的「性別(ジェンダー)」の意味で記号が使用されているということです。時の流れとともに、記号の主な使われ方が少しずつ変化していった結果でしょう。

元は惑星の記号から始まり、生物学的な雌雄を経て、社会的な性別の意味が現代ではポピュラーに。性別記号からは、記号の意味が変遷していく様子が分かりやすく見て取れるように思います。
こうして形と意味の結びつきを掘り下げるのは、なかなか興味深いものです。
以上、「性別記号」の由来の話でした。